代表取締役の住所非表示
2025/10/18
「住まい」を守る選択か、「信用」を優先する選択か?—代表取締役の住所非表示措置を考える
2024年10月1日より、「代表取締役等住所非表示措置」という新しい制度が施行されました。これは、これまで登記事項証明書に詳細が記載され、誰でも閲覧可能だった代表取締役の住所について、市区町村(最小行政区画)までしか表示されないようにできる制度です。
「起業のハードルを下げる」「プライバシーを守る」という点で画期的な制度ですが、利用にあたってはメリットとデメリットの両方を理解し、慎重に判断することが求められます。
1. 制度の概要:何がどう変わるのか
この措置の対象は株式会社の代表取締役、代表執行役、代表清算人です。
住所が非表示になると、「東京都千代田区丸の内一丁目1番1号」という表記が「東京都千代田区」までとなります。これにより、自宅を本社としている場合などに、第三者から自宅の場所を特定されるリスクを大幅に減らすことができます。
しかし、注意すべきは、この措置は住所の登記自体を不要にするものではないという点です。登記簿上のデータには住所が引き続き存在しており、非表示となるのは登記事項証明書など、一般に公開される書面上の表示だけです。
2. 住所非表示措置のメリット
① プライバシー保護と安心の確保
最大のメリットは、代表取締役個人のプライバシーが保護されることです。ストーカー被害や、しつこいセールスによる営業妨害、その他望まない接触のリスクを軽減し、経営者がより安心して事業に専念できる環境を整えます。特に自宅を登記上の本店としている小規模事業者や、SNSなどで広く顔が知られている方にとっては、大きな福音と言えます。
② 起業のハードル低下
自宅住所が公開されることに抵抗があり、起業をためらっていた人、あるいは自宅とは別に法人登記用の物件を借りていた人にとって、この措置はコストと精神的なハードルを下げる効果があります。
3. 住所非表示措置のデメリットと留意点
一方で、この措置は会社の「信用」や「取引の円滑さ」に影響を与える可能性があるという、無視できないデメリットも存在します。
⚠️ デメリット:取引や手続きの煩雑化・信用への影響
(1) 金融機関からの融資への影響
金融機関が融資を審査する際、代表取締役の住所は、その資産状況や居住の安定性を確認するための重要な情報となります。住所が非表示になっている場合、融資担当者は本人確認や信用判断のために別途、住民票などの詳細な住所証明書の提出を求める可能性が高くなります。これにより、融資手続きが煩雑になり、時間がかかったり、最悪の場合は融資が難しくなるリスクも考えられます。
(2) 不動産取引・重要な契約の障害
不動産の売買や、M&Aにおけるデューデリジェンス(企業調査)など、高い信頼性が求められる重要な契約の場面では、取引相手から代表取締役の完全な住所の提示を求められることがあり、手続きが停滞する可能性があります。
(3) 責任追及の困難化(透明性の低下)
住所の非表示は、会社に何か問題が発生し、代表者個人への責任追及が必要になった場合に、相手方にとって手続きを困難にする要因となり、結果的に会社の透明性や社会的信用の低下につながるリスクも否定できません。
4. 申出のタイミングと手続き
この制度を利用する上で、最も重要なのが申出のタイミングです。
住所非表示措置は、設立登記や代表取締役の就任・重任登記、住所変更登記など、代表者の住所を登記する申請と「同時に」行わなければなりません。すでに登記されている住所を後から「非表示にしたい」と単独で申し出ることはできません。
このため、制度の利用を検討している場合は、次の登記のタイミングを逃さないよう、司法書士などの専門家と相談しながら準備を進める必要があります。
終わりに:総合的な判断を
代表取締役等住所非表示措置は、プライバシー保護の観点から非常に優れた制度です。しかし、会社の置かれている状況や、今後の事業計画(特に融資や大型の取引の予定)を踏まえて、プライバシー保護のメリットと取引円滑化のデメリットを天秤にかけ、総合的に判断することが賢明です。
あなたの会社は、どちらの選択が事業の成長と安定に寄与するとお考えでしょうか。
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